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「アニーよ銃を取れ」

原題 Annie Get Your Gun
監督 ジョージ・シドニー
出演 ベティ・ハットンハワード・キールルイス・カルハーン

ブロードウェイでも何度もリバイバルされ,映画版も大ヒット,その上(これは私にとっては意味がないですが)日本でも何度も有名スターによって上演されている名作.

てなわけで,自分ではこの映画,当然見ているつもりでした.おなじみのワン・コイン・シネマで見かけたときも,安いからもう一度チェックしておくかくらいの気分でした.*1 ところが,見覚えのあるシーンとともに,全然記憶にないシーンがあります.しかも,どんどん知らない話になっていくし・・・

ガーン,この映画,見るの,初めてだよ!

「ザッツ・エンタテインメント」三部作+1で名場面の数々(ジュディ・ガーランドによる未公開テイクまで)を見ているし,エセル・マーマンによるオリジナル・キャスト版のCDは私のお気に入りで何度となく聴いているため,完全に「見た気」になっていました.同じ西部の実在した女性を主人公にしているということや,相手役が両方ともハワード・キールということで,ドリス・デイ「カラミティ・ジェーン」とこの映画が頭の中でごっちゃになってしまったようです.

まあ,私の「ぼけ」はともかくとして,この映画はいろいろな意味で「不幸な」名作という気はします.

オリジナルのブロードウェイ版はリチャード・ロジャースオスカー・ハマースタイン2世の製作で,アーヴィング・バーリンが作曲,ドロシー・フィールズが作詞,そしてブロードウェイの女王と呼ばれたエセル・マーマンが主演と,後世に名を残す才能たちが結集しています.*2

映画版の方もミュージカル映画の本家ともいえるMGMが権利を手に入れ,御大のアーサー・フリードが製作.監督のジョージ・シドニーも地味ですが何げに「錨を上げて」「キス・ミー・ケイト」「愛情物語」「夜の豹」などを撮っている実力派(?).

主演はこれが一世一代の当たり役となったベティ・ハットンで,相手役のハワード・キールもこれがデビュー作ながら,この後に数々の作品で重要な役を演ずることになります.

内容も(おそらく)ブロードウェイ版を素直に踏襲し,興業的にもヒットを記録します.*3 作中で歌われる「ショウほど素敵な商売はない」は「ホワイト・クリスマス」と並んでバーリンの代表作となり,そのまま同名の映画が製作されるほどの有名曲です.

しかし,上に記したような錚々たる「ウリ」があるにしては,この映画は冷たい扱いを受けているような印象があります.これは,正面きって批判されたり低評価されたりしているという意味ではなく,言及されて当然と思われる場合に触れられることが少ない,といった消極的な意味で,もしかしたら私が「ひが読み」をしているのかもしれません.

ですが,英語版のWikipediaのロジャース&ハマースタインの項目でも,さほど有名でない作品が列挙されている中で「アニーよ銃を取れ」は挙げられていません.*4 また楽曲の「ショウほど素敵な商売はない」の紹介でも,同名の映画の方のことを言及することが多く,オリジナルのこの映画の方はないがしろにされているような気がしました.*5

もっとも,この映画にはさまざまな問題があり,単純に賞賛することに気が引けるという事実はあります.

まず,この映画におけるアメリカ先住民(インディアン)に対する扱いが差別的だということがあります.多くの西部劇のようにアメリカ先住民を悪役にしているわけではないですが,典型的なコメディリリーフとして戯画化されています.

作曲家のバーリンはこの点を問題にして,この作品のビデオ化を長らく許可しなかったそうです.*6 彼の死後に遺族が許可をして,初めてビデオ化が可能になったとのこと.

それだけでなくエンディングも現代のフェミニストなら激昂必至といえるものです.時代を考えれば,製作者たちにさほどの悪意はなかったのでしょうし,ミュージカル・ファンは基本的に,ストーリーなんて付け足し程度に考えているのですが・・・

ですが,それ以上にミュージカル・ファンにとって引っかかるのは,最初に主役として予定されていたジュディ・ガーランドの降板でしょう.後にドラッグによる入退院を繰り返す彼女は,この頃すでに精神的にぼろぼろになっていたようです.この映画を降板した後,「サマー・ストック」を最後に,彼女はMGMを解雇されます.

MGMの黄金期のミュージカルを愛する者にとっては,アステア,ケリーと並んで,ジュディ・ガーランドは特別な存在です.彼女より美しい女優も,歌が上手な歌手も,踊りにたけたダンサーももちろんいますが,彼女ほど愛されたスターはいません.

ベティ・ハットンももちろん素晴らしい熱演を見せていますが,パラマウントからの「貸し出し」ということもありますし,なじみのジュディがアニーを演ずるのが見たかったというのが大方の偽らざる心境でしょう.MGM賛歌といえる「ザッツ・エンタテインメント」で冷遇(?)されているのも無理ないことかもしれません.

この映画は,ジュディ・ガーランドの降板だけでなく,いろいろなトラブル続きだったようです.監督がバズビー・バークリーからジョージ・シドニーに代わったことは,この時代ではそれほどたいしたことでもない*7 ですが,バッファロー・ビル役のフランク・モーガンが撮影中に死亡して,彼の登場場面はすべて撮り直したそうです.

また,ベティ・ハットンはこの映画の後は役に恵まれず,ほどなくして芸能界を引退,消息不明でしたが,1970年代に教会の賄い婦として「発見」されます.

しかし,そういったいろいろな付加知識を取り除いてみれば,映画自体は何のてらいもないミュージカルです.

何だかんだ言っても,アーヴィング・バーリンの曲は名曲ぞろい.冒頭の「気ままなくらし」や掛け合いが楽しい「あなたに出来ることなら」などのユーモラスな曲が私は好きですが,「ムーンシャイン・ララバイ」や「朝に太陽」などのロマンチックな曲も捨てがたいところがあります.

「ショウほど素敵な商売はない」はオリジナルという強みもありますが,舞台で演じられるだけの同名の映画版よりも,ストーリーに組みこまれているこちらの方がしっくり来るような気がします.

役者では,キーナン・ウィンが収穫でした.「恋愛準決勝戦」の一人二役が印象的でしたが,この映画でもあまりでしゃばらずに,それでいて作品にユーモアを与えています.



MGM黄金期ミュージカル映画についての記事

「雨に唄えば」
「バンド・ワゴン」

「踊る大紐育」
「掠奪された7人の花嫁」
「キス・ミー・ケイト」
「雲流るるままに」




*1 この文章を書くために調べたところ,本家のワーナー・ホーム・ビデオからは映像特典(ジュディ・ガーランド,ベティ・ハットンの未公開映像)つきのDVDが期間限定版ながら,980円で出ていました.500円の差なら,そちらを買えばよかったと今は後悔しています.

*2 この中ではドロシー・フィールズだけが比較的マイナーかもしれません.名曲 "On the Sunny Side of the Street" の作詞家.

*3 後に同名のテレビ番組が作られたそうです.当時,日本でも放映されていたようでDVDでも出ていますが,さすがにそれは未見.

*4 それを見たときには,日本語の記事が間違っていて,本当はこの作品はリチャード・ロジャース,オスカー・ハマースタイン2世のものではないのかと疑ってしまいました.しかし間違いなく「ロジャハマ」作品のようです.

*5 楽曲の「雨に唄えば」などもオリジナルよりも,同名の映画のものが有名ですが,それは映画自体の知名度,完成度に大きな差があることから頷けます.しかし,「アニーよ銃を取れ」と「ショウほど素敵な商売はない」の二つの映画は似たようなできだと思います(個人的には,ドナルド・オコナーの出ている「ショウほど」に軍配を上げますが・・・).

*6 この点に関しては,バーリンと映画会社の間で権利関係のトラブルがあり,それが理由でビデオ化されなかったという記述もあります.
余談ですが,バーリンという人はそうとう気難しい人でそのうえ日本嫌いだったらしく,あの「ホワイト・クリスマス」は日本語に翻訳することが禁じられていたそうです.
また,自分の歌の詞を他人の作品と一緒の本に掲載することも認めていなかったそうで,ジャズのスタンダードの曲を「正しく」翻訳して紹介する「ジャズ詩大全」という素晴らしい本があるのですが,そのためにバーリンの作品を載せることが出来ず,著者の村尾陸男さんは,わざわざ一冊「アーヴィング・バーリン編」を別巻として出しているほどです.

*7 たとえば,「風とともに去りぬ」も監督は交代していますし,「オズの魔法使い」などは5人もの監督が入れ代わり立ち代わり撮影しています.

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